
先日、仕事でケガをした際に、上司から「労災は使わない方向で…」と言われ、どうすればいいか一人で悩んでいませんか?
会社に迷惑はかけたくないけれど、自分の体のことも心配だ、という真面目な方ほど、こうした状況で深く思い悩んでしまうものです。
結論から言うと、あなたの身を守る最善の選択は「正しく労災保険を使うこと」です。そして、それは会社と敵対することなく実現できます。
この記事は単なる法律解説ではありません。あなたの不安な気持ちに寄り添い、上司への具体的な話し方や相談手順までを丁寧にお伝えする、お守りのようなガイドです。
この記事を読み終える頃には、きっと以下のことが明確になっているはずです。
- 労災を使わないことの本当のリスクがわかる
- 会社と穏便に話を進めるための具体的なステップがわかる
- 万が一の時に相談できる場所がわかる
まずは落ち着いて。あなたが「悪いこと」をしている訳ではありません
「会社に迷惑をかけたくない」「波風を立てたくない」と感じるその気持ちは、あなたがとても誠実である証拠です。しかし、労災保険の利用を申し出ることは、決してわがままなことでも、会社を攻撃する行為でもありません。
労災保険は、会社のために働いている人が業務中にケガや病気をした場合に、その労働者を守るために国が作った制度です。保険料を支払っているのは会社ですから、労働者であるあなたは、必要な時にこの制度を正々堂々と利用する権利があります。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 「労災を使うと会社に居づらくなるのでは?」という不安は、あなただけが抱えているものではありません。
なぜなら、このご質問は、私が社会保険労務士として日々受ける相談の中で、最も多いものの一つだからです。法律の正論だけでは割り切れない、人間関係への不安を感じるのは当然のことです。まずは「悩んでいるのは自分だけじゃないんだ」と知って、少しだけ心を落ち着けてくださいね。
なぜ「労災を使わない」が危険なのか?あなたを待ち受ける3つの落とし穴
上司の言う通りに労災を使わないでいると、短期的には波風が立たないように見えるかもしれません。しかし、長い目で見ると、あなたにとって非常に大きなリスクを背負うことになります。具体的には、以下の3つの「落とし穴」が待っています。
1. 治療費が全額自己負担になるリスク
最も注意すべきなのが、治療費の問題です。仕事中のケガの治療に、普段使っている健康保険証を使うことは、実は法律で禁止されています。
もし健康保険を使って治療を続け、後からそれが労災案件だったと判明した場合、健康保険組合(協会けんぽ等)が負担していた医療費(通常7割分)を、あなたが全額返還しなくてはならないのです。
「治療費は会社が払う」と言ってくれても、それはあくまで口約束に過ぎません。将来、治療が長引いたり、会社が支払いを拒んだりした場合、最終的にその負担はすべてあなたにのしかかってくる危険性があります。
2. 後遺症が残っても補償ゼロのリスク
今は「軽いケガ」だと思っていても、後から症状が悪化したり、思いがけない後遺症が残ったりする可能性はゼロではありません。
正しく労災保険を使っていれば、万が一後遺症が残った場合でも「障害(補償)給付」という形で、その後の生活を支えるための補償が受けられます。しかし、労災を使わなければ、こうした補償は一切ありません。
あなたの将来の健康と生活を守るためにも、安易に「使わない」という選択をしてはいけないのです。
🎨 デザイナー向け指示書:インフォグラフィック
件名: 「労災を使った未来」と「使わなかった未来」の比較イラスト
目的: 労災申請の有無によって、将来受けられる補償にどれだけ大きな差が出るかを、読者が一目で理解できるようにする。
構成要素:
1. タイトル: もしもの時、こんなに違う!労災保険の重要性
2. 左側(使わなかった未来): 悲しい表情の人物イラスト。「治療費」「休業中の生活費」「後遺障害」の項目に「すべて自己負担」「補償なし」「補償なし」と記載。
3. 右側(使った未来): 安心した表情の人物イラスト。「治療費」「休業中の生活費」「後遺障害」の項目に「自己負担ゼロ」「給与の約8割補償」「手厚い補償あり」と記載。
4. 中央の矢印: 「あなたの今の選択」というテキストを配置し、左右の未来に分岐するイメージ。
5. 補足: 全体的にシンプルで分かりやすいアイコンを使用する。
デザインの方向性: 不安を煽りすぎず、しかし重要性が伝わるように、暖色系の色を使いつつもアイコンや文字で明確な差を示す。フラットデザインが望ましい。
参考altテキスト: 労災保険を使った場合と使わなかった場合の将来の補償内容を比較する図解。労災を使えば治療費や休業補償、後遺障害補償が受けられるが、使わないと全て自己負担になることを示している。
3. 知らぬ間に会社の「犯罪」に加担するリスク
実は、会社が労災の発生を意図的に隠し、労働基準監督署に報告しない行為は「労災隠し」と呼ばれ、法律で罰せられる犯罪行為です。
事業者が労働災害の発生について、労働基準監督署長に報告をしない、又は虚偽の報告をした場合は、「労災かくし」として、50万円以下の罰金に処せられます。
あなたが会社の言う通りに黙っていることは、意図せずして、会社の犯罪行為に加担してしまうことにも繋がりかねません。あなた自身と、そして会社のコンプライアンスを守るためにも、正しい手続きを踏むことが不可欠なのです。
【会話例あり】波風を立てない!上司・会社への相談3ステップ
では、具体的にどう行動すればよいのでしょうか。大切なのは、感情的にならず、会社を責めるような態度を取らないことです。「権利を主張する」のではなく、あくまで「相談する」という姿勢で、以下の3ステップで進めてみましょう。
ステップ1:事前準備(事実と気持ちの整理)
まず、上司に話す前に、ご自身の状況を客観的に整理しておくことが重要です。
- いつ、どこで、何をしていてケガをしたか
- 病院での診断内容と、今後の治療方針
- 自分が何に不安を感じているか(例:「治療が長引いたらどうしよう」「健康保険が使えないと聞いて心配になった」など)
これらの情報をメモにまとめておくだけで、冷静に話を進めることができます。
ステップ2:上司への切り出し方(相談ベースで話す)
タイミングを見計らい、上司に「少しご相談したいことがあるのですが」と切り出します。そして、準備したメモを見ながら、責める口調にならないように注意しつつ、事実と自分の不安を伝えます。
| 観点 | ❌ やってはいけない伝え方(NG例) | ✅ 円満に進む伝え方(OK例) |
|---|---|---|
| **切り出し方** | 「労災を使わせてもらえないのは違法ですよね?」 | 「先日のケガの件で、少しご相談させてください。」 |
| **伝え方** | 「会社のせいでケガしたんですから、ちゃんと手続きしてください。」 | 「治療が少し長引きそうでして。調べてみたら、仕事のケガには健康保険が使えないと知り、どうすればよいか不安になりました。」 |
| **要望の形** | 「とにかく労災を申請してください。」 | 「今後の治療について、正式な労災の手続きで進めさせていただけないでしょうか?」 |
ステップ3:もし断られた場合の対応
もし、再度「内々で処理したい」と言われた場合でも、その場で感情的に反論するのは避けましょう。「承知いたしました。ただ、私も不安なので、一度家族や専門の方にも相談してみます」と伝え、一旦その場は引き下がるのが賢明です。
これにより、あなたが一人で抱え込んでいるわけではないことを、穏便に伝えることができます。
✍️ 専門家の経験からの一言アドバイス
【結論】: 「治療費は会社が払うから」という言葉を、その場で安易に信じてはいけません。
なぜなら、口約束は非常に脆いものだからです。後から症状が悪化して高額な治療が必要になったり、担当者が変わったりした途端に、約束が反故にされるケースを私は何度も見てきました。必ず「後から症状が悪化した場合のことも考えて、正式な手続きを踏ませてください」と、将来のリスクを見据えた伝え方をすることが、あなた自身を守る上で非常に重要です。
それでも解決しない…よくある質問と最後の相談場所
Q. パートやアルバイトでも労災は使えますか?
A. はい、使えます。 雇用形態に関わらず、会社に雇用されて働くすべての労働者が労災保険の対象です。
Q. 自分の不注意もあったのですが…
A. 問題なく使えます。 業務中のケガであれば、労働者に多少の過失があったとしても、労災保険は適用されるのが原則です。
Q. 会社を通さずに自分で申請できますか?
A. はい、可能です。 会社がどうしても手続きをしてくれない場合は、労働基準監督署に相談の上、労働者自身で申請手続き(被害者請求)を行うことができます。
まとめ
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。最後に、あなたの背中を押すために、最も重要なポイントをもう一度お伝えします。
- 労災を使うことは、あなたと会社を長期的なリスクから守る最善策です。
- 感情的にならず、「相談」という形で冷静に話すことが大切です。
- あなたは一人ではありません。必ず相談できる場所があります。
不安な気持ちの中、ご自身の状況を改善しようと、この記事をここまで読み進めてくださったあなたは、とても誠実で立派な方です。その勇気があれば、きっと大丈夫。まずは、あなたの未来のために、小さな一歩を踏出してみましょう。
もし、どうしても会社への相談が難しい、あるいは相談しても状況が改善しないと感じたら、一人で抱え込まないでください。まずは匿名・無料で相談できる「労働基準監督署」に電話してみましょう。
労働基準監督署は、会社を取り締まる怖い場所というイメージがあるかもしれませんが、本来は労働者のための相談窓口です。お説教をされるようなことは決してなく、あなたの状況を親身に聞き、どうすればよいかアドバイスをくれる、心強い味方になってくれます。

